【ハプニング☆キス】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
本日、東方司令部のロイ・マスタング御一行は、町の居酒屋を借り切って宴会の真っ最中だった。
その日は一年の最後の日。
明日は新年というのに、軍人には休みはあってなきがごとし。
それならば、せめて仕事納めに慰労会という名目で忘年会を企画したのだ。
普段なら参加しないロイも参加とあって、酒量はもの凄いペースで空けられていった。
―――カラン―――
扉が開いて、入ってきたのは雨に濡れた二人の男性。
賑やかな宴会に夢中の面々は、二人が入ってきたのにも気付く様子はなかった。
「…悪かったな、急に」
「いいえ、飲んでなかったの俺だけですし、駅からここ近いっスから。しっかし、濡れちゃいましたねぇ~」
車を降りてから突然降り出した季節はずれの雨に、傘を持ってなかったハボックとヒューズは少し濡れてしまったのだ。
突然の出張に、連絡があったときには殆どの人間が居酒屋に移動したあとで。
最後に戸締まりをしていハボックが電話を取ったのだ。
「雪なら濡れはしなかったのにな~」
「そうですね」
ハボックは苦笑しながら濡れたコートを脱いで、二人分のコートを壁のコート掛けに掛けると、店からタオルを借りた。
「どうぞ、中佐」
「おう、悪ぃな。…ところでよ、何の飲み会?」
「…今年の仕事が終わった慰労会らしいっス」
「…ああ、『忘年会』、ね…」
ヒューズもそれだけで分かったようで、苦笑を漏らした。
軍人というお堅い職業柄、酒が入れば多少羽目を外してしまうのは仕方がないことだった。
しかし、貸し切りとはいえ、大分盛り上がっている様子で。
すでに寝てしまっている者や上半身裸で踊っている者までいる始末。
一般人がいなくて良かったと思うような有様だった。
「…ところでロイはどこだ?」
「大佐っスか?真ん中辺りに…ああ、フェリーの側にいるのがそうじゃないかと」
ハボックに指さされた辺りを見たヒューズが、途端に眉間にシワを寄せた。
「…おい、ワンコ…」
「は?ワンコって俺っスか?…酷いっスね~」
ヒューズにワンコ呼ばわれされて、ハボックが少しいじけたように苦笑した。
「…あいつ、今何飲んでるんだ?」
ヒューズが気にしたのは、ロイの手にある見慣れない酒のボトル。
ほんのりと赤くなったロイは、花瓶のような形で白い色に花の絵柄が描かれた陶磁器製の見慣れない瓶を放さずに持っているのだ。
「…確かあれは、将軍からの差し入れでシン国の酒みたいっスよ?」
面白いボトルですよね、と白い陶磁器製の瓶の事をハボックが言う頃には、ヒューズの顔色が悪くなっていた。
「やべぇ!!ワンコ、急いであいつ連れて帰れ!!!!」
「え!?何でですか?」
ヒューズの焦りように、ハボックの方がびっくりしていた。
「…あいつは、深酒するとキス魔になるんだよ!!」
「何ですか、それ?大佐、酒強いじゃないですか?」
ロイは酒に酔いにくい事をハボックは知っていた。
だから、ヒューズの冗談だと思っていたのだ。
「…いつものあいつなら、な。…ロイは、シン国の酒を飲むと豹変しちまうんだよ!!」
「はぁ?マジですか、それ?」
「大マジだ!!」
ヒューズ曰く、ワインやビールならさほど酔わないロイだったが、学生時代に仲間と飲んだ時に、持ち寄ったシン国の酒を飲んで豹変したと言うことだった。
「…周りにいる奴ら、みんなやられたんだ…」
「…た、大佐ぁ~!!」
衝撃の事実に、ハボックは後頭部をかち割られたようなショックを受けた。
酒を飲んで色気が増したロイに迫られたら…その後の光景が目に浮かぶようだった。
幸いにも、ヒューズがロイをそこから連れて逃げ帰ってくれたそうで。
それからはヒューズが一緒の時には、シン国の酒を飲まないように気を付けてくれていたそうだ。
そして、急いでロイの元に走り寄った二人が目にした光景―――。
「…よく見たら、お前可愛いじゃないか…?」
「はい?そうですか~?」
酒が入って陽気になったフェリーの眼鏡を取って、今にもキスしそうな体勢で…まるで口説いているようにしか見えなかった。
「うわ、大佐っ!!」
「ここはいいから、早く連れて帰れ!!」
焦るハボックを後ろから押すようにしてロイの元に急がせたヒューズは、唇が触れる寸前にフェリーを引きはがすことに成功した。
「…ん~?」
「…ちょ、大佐!!しっかりして下さいよ?」
ロイを抱きしめたハボックが焦った様子でロイを覗き込む。
「…ハボック…?」
「はい、そうですよ?…全くあんたは…目を離せないっすね…」
トロンとした瞳のロイに見上げられて、ハボックは怒るに怒れない様子だった。
ロイを抱きかかえると、急いでハボックは店を後にした。
「…大佐、大佐?」
「…う…ん…?」
漸く酒が醒めてきたらしいロイが、寒さに側にいるハボックにすり寄ってきた。
「…寒い…」
寒いのもそのはず。そこは公園の中の東屋だったのだ。
真冬の夜、先程の雨が雪に変わっていて、ちらりちらりと舞っている気温では寒いのは当たり前だったが、そのお陰で酔いが早く醒めたともいえる。
「…ハボック?いつの間に来たんだ?」
「…遅れて行ったんですよ」
酔っていたロイは少し記憶が曖昧なようだった。
ハボックが自分のコートを脱いで、ロイのコートの上に着せてやる。
「…大佐、お願いがあるんスけど…」
「うん?何だ?」
「…俺のいない時に、シンの酒飲まないでください」
「…ヒューズみたいな事言うんだな?お前達はどうしてそんな事を言うんだ?」
保護者みたいな事を言うな、と少しむくれた表情で睨み返してきた。
「…あんたね…」
――全然分かってない。
自覚していないだけに、色々言っても無駄のようだった。
「…とにかく、約束してください」
「…よく意味が分からんが…まあ、そのくらいのお強請りは聞いてやろうじゃないか」
ハボックが必死に頼み込むと、ロイは「仕方がないな」と言うように笑みを浮かべた。
「お、お強請りって…」
(まだ酔ってんのか?)
そう思ってしまうほど素直なロイに、ハボックは少し狼狽えてしまう。
「…まあ、いいっスけどね…」
どうせ敵わないのだ、この恋人には。
「…ん…ハボ…」
「…黙って…」
ハボックはロイに覆い被さるようにして、深い口付けを奪った。
外は雪のカーテンで、東屋の中を見咎める事はないだろう。
どうせ酔ってキスをするなら、自分だけにして欲しい。
絶対に次からは側を離れないと決めたハボックだった。
【END】
今年最後のSSでした☆
大晦日でも煩悩爆発~(笑)
銀ちゃんに、途中まで「ヒュハボ?」と言われました(爆笑)←残念☆
【 2005.12.31 UP 】
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